2005年12月18日

「愛の渇き」 三島由紀夫

 ここに至って悦子の本能は、狩人の本能に似通った。たまたま遠方の小藪のかげに野兎の白い尾がうごくのを見ると、彼女の狡智は研ぎすまされ、その全身の血はあやしく波立ち、筋肉は躍動し、神経組織は飛んでゆく一本の矢のように束ねられて緊張した。こうした生甲斐を持たぬ閑日月には、一件別人のようになった狩人は、炉辺のうたた寝のほかの何ものをも希わない怠惰な明暮を送るのであった。
posted by ヒメスケ at 00:21| 三島由紀夫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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