2005年12月17日

「愛の渇き」 三島由紀夫

 良輔は頭を振ってちらと妻を見上げた。良輔自身は気づいていない。そのとき妻を見上げた彼の目には、いつも彼が嫌悪を以てしか見ることの出来ない妻のあの犬のような眼差しが感染っていたのである。澱んだ熱っぽい切望するこの眼差、家畜が自分の体内に起った病気にわけがわからずに戸惑いしながら、じっと訴えるように飼主を見上げるこの眼差し、良輔はおそらく、自分の内部にはじめて了解しがたいものが生まれてくる不安を感じていた。それは病気だったが、病気とはそれだけのものではない。
posted by ヒメスケ at 22:41| 三島由紀夫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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